【番外編⑫】会社のお金は、曖昧にしないと決めた日

キャリアストーリー

入社してすぐの、小さな事業所で

地方の事業所に入社してまもない頃のことです。少人数の、アットホームな雰囲気の職場で、私もすぐに馴染むことができました。

そこに、営業の課長職についている社員がいました。人当たりがよく、得意先からも周りの社員からも頼りにされる、一見、本当にいい人でした。

ただ、残念なことに、その人は会社のお金の扱いに関して、かなりルーズなところがありました。

帳簿と現金残高のズレ

営業活動で出張などがあるときは、経費の仮払金として、一定のお金を金庫から渡すことがあります。私は経理として採用されたので、帳簿や現金残高のチェックは当然の仕事でした。

調べてみると、仮払金の精算をしないまま、経費だけを精算している状態が続いていました。金庫の現金はどんどん減っていくのに、その社員の仮払金はどんどん増えていく一方だったのです。

あまりに度を超えていたので、支店長に報告しました。すると、支店長はすでに了承した上でのことだったと分かりました。支店全体が、その状態を黙認していたのです。

社長の訪問で明らかになったこと

そんな折、当時の社長が支店を訪問することになりました。新人だった私の面談も兼ねて、得意先への挨拶回りに来てくれたのです。

当時の社長は創業家の親族で、もともと経理の出身でした。支店を訪れると、自ら金庫の現金をチェックする人でした。

当然、仮払金が大きくふくらんでいることが明らかになりました。入社して間もない私が、黙って見過ごすこともできたかもしれません。けれど、支店の人たちがいい人であることと、問題を見過ごすことは、別の話です。自分の仕事を全うすることが第一だと、当時の私は考えていました。

その後、支店長が本人に働きかけ、仮払金は社内積立預金を取り崩すことで返金されました。これで一件落着かと思いきや、本人の家族は積立金の存在を知っていたため、後になって積立金がないことが分かり、ちょっとした騒動になったと聞いています。

もう一つの出来事

この社員については、もう一つ気になることがありました。得意先の台帳をチェックしていたとき、小口の売上に対する入金が確認できなかったのです。請求書担当の同僚に確認してもらったところ、本人からは「その売り上げはサンプルとして渡したので入金はない」という答えが返ってきました。

ですが、サンプルであれば、最初からそのように売上計上しているはずです。確認を進めると、数千円程度のお金が、きちんと処理されないまま扱われていたことが分かりました。支店長に報告すると、以前にも同じようなことが何度かあったようでした。

それ以降、私は以前より注意して見るようになりました。それが伝わったのか、それ以降は同じようなことは起きませんでした。

人の良さと、お金の管理は別の話

数年後、この社員は東京へ転勤になりました。お金の扱いに関する緩さは、環境が変わっても大きくは変わらなかったようです。目を光らせる人がいなくなったこともあり、相変わらず仮払金は積み重なっていったと聞いています。それでも、人材が足りなかったこともあり、その社員は支店長に就任することになりました。

私が本社に転勤したときも、状況は変わっていませんでした。その後、本人は支店長職を外れ、数年後に退職しました。

人当たりがよく、周りから頼られる人柄であることと、会社のお金をきちんと管理できることは、まったく別の話なのだと、この出来事から学びました。情に流されてしまうと、見るべきものを見落としてしまう。どんなに人が良くても、お金に関してルーズであることは、本人にとっても、会社にとっても、良い結果にはつながらないのだと思います。

この経験があったからこそ、というほど単純ではないかもしれませんが、会社のお金に関しては曖昧にしない、数字がおかしければきちんと確認する、という仕事の仕方は、この頃から私の中に根付いていったように思います。


執筆者:中小企業 元一般事務員・元役員

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