「特別なスキルがなくても、できることがある」
今回からは、私が35年間実践してきた具体的な仕事術をお伝えします。いずれも、難しいことは何一つありません。でも、コツコツ続けることで、確実にキャリアを動かしてくれたものばかりです。
仕事術① やりきる力――人が休む時こそ、チャンス
連休になると、私はよく出勤していました。
ゴールデンウィーク、お盆。世の中が休んでいる時に、私はオフィスにいることが多かった。有給休暇はほとんど消化できませんでした。消化率は1割ほどだったと思います。それは事実です。
「かわいそう」と思う方もいるかもしれません。現代の観点から見れば、ワークライフバランスの問題だと言う人もいるでしょう。それは一つの正しい見方だと思います。
でも、当時の私の気持ちは、そうではありませんでした。
人が休んでいる時こそ、電話が鳴らない。上司が来ない。「ちょっといいですか」と呼び止められることがない。静かなオフィスで、自分のペースで、じっくりと考えながら仕事に向き合える。
溜まっていた書類を整理する。業務の流れを一から見直す。提案書の下書きを書く。次の改善点をまとめる。普段の業務の中ではなかなかできない、腰を据えた仕事ができたのです。
「やりきる」という感覚を積み重ねることで、自分に対する信頼が育っていきました。何かを提案する時、その提案の裏には必ず、誰も見ていないところで積み重ねた時間があります。その時間が、提案の重さになります。
一つだけアドバイスをするとすれば、「やりきる」は量ではなく、質の問題だということです。長時間働けばいいのではなく、「やると決めたことを最後まで仕上げる」という習慣を作ること。どんなに小さな仕事でも、中途半端にしない。その積み重ねが、仕事への誠実さとして周りに伝わっていくのです。
今日、一つだけ、やりきることを決めてみてください。
仕事術② 縁の下の戦略家になる――営業社員の効率を考える
事務員の仕事は「補佐役」だと思われがちです。書類を整理したり、電話を取ったり、という仕事は確かに「補佐」に見えるかもしれません。
でも私は、事務員の仕事をそう捉えていませんでした。
私が常に考えていたのは、「どうすれば営業社員が最大のパフォーマンスを出せるか」ということです。
営業社員が現場で動いている間、事務員は後方から全体を見ています。全体を見ているからこそ、気づけることがある。
「この連絡の取り方は非効率だ」
「この書類の流れは無駄が多い」
「この情報共有の仕方を変えれば、営業の移動時間が減る」
そういった視点から、私は少しずつ仕組みを変えていきました。
当時はまだFAXが主流でしたが、情報の整理の仕方を変えることで、営業社員が必要な情報にアクセスするまでの時間を大幅に短縮できました。事業所ごとにバラバラだった書式を統一し、どの事業所でも同じように作業できる環境を整えました。担当者が変わっても業務が滞らない仕組みを作ることを目指しました。
「事務員は縁の下の力持ち」という言葉があります。でも私は、縁の下の「戦略家」でありたいと思っていました。支えるだけでなく、考える。与えられた仕事をこなすだけでなく、仕組みを設計する。その意識の違いが、長い目で見れば大きな差になります。
あなたも、今の仕事を「こなす」のではなく、「設計する」という目線で見てみてください。「この仕事、もっとこうできないか」という問いを持ち続けることが、キャリアを動かす最初の一歩になります。
仕事術③ 売掛金管理の徹底――小さな数字が会社を救う
これは少し専門的な話になりますが、事務員として最も会社に貢献できた取り組みの一つです。
当時の会社で問題だったのは、滞留債権でした。月次締めは各事業所で行われていましたが、取引先が入金しなくても催促せず放置する、財務状況の怪しい取引先にも商品を売り続けて最終的に倒産されて回収できなくなる――そんなことが各支店で当然のように起きていました。
積もり積もった滞留債権は膨大な金額になり、資金繰りがままならず、短期借入金でつなぐ日々。借入金の完済がどんどん遠のいていく状況でした。本社経理も各支店の銀行口座への入金を支店任せにしており、チェック機能がほぼ働いていませんでした。
「見えていない問題」は解決できません。まず「見える化」することが改善の第一歩です。
そして私が強く意識したのは、入金処理をして請求書を作成するのは女性事務員であるということ。チェックの最後の砦は、現場にいる私たちです。その感覚を、後に管理職になってから女性事務員たちに徹底的に伝えました。
「この数字、なんかおかしくないか」と気づけるかどうかが、仕事の深さを分けます。数字に苦手意識がある方も、一件一件の取引を丁寧に確認するだけで、必ず気づくことがあります。そこから始めてみてください。
仕事術①②③に共通していることがあります。
それは、「与えられた仕事の外側を見ること」です。
やりきる力は、自分への信頼を育てます。縁の下の戦略家は、組織全体を見る目を育てます。売掛金管理の徹底は、会社の現実を見る目を育てます。どれも、今日から始められることです。
次回は、仕事術④⑤をご紹介します。「女性事務員の力を社長に直談判」「キャッシュの考え方を広める」――気づいたなら、動く。その信念が生んだ、私のキャリアの転換点です。
執筆者:中小企業 元一般事務員・元役員

コメント