【番外編⑩】全社で同じ仕組みを動かすということ

キャリアストーリー

新しいシステムへの切り替え

各支店から代表者が1名ずつ本社に集まり、新しい基幹システムを導入するための会議が始まりました。集まったのは主にバックオフィスの事務員でしたが、営業社員も何人か参加していました。バックオフィスと営業、それぞれの立場から現状を把握するためです。

このプロジェクトは、新しい社長が就任してから初めての、大きな投資を伴う取り組みでした。

それまで使っていたシステムは、オフラインでしか使えないもので、各支店からの評判はあまりよくありませんでした。新しいシステムは、全社で初めてオンラインで使えるもので、会社としては理想に近いソフトでした。

バラバラだったデータとルール

ただ、それまでオフラインで運用していたぶん、各支店のデータの持ち方や運用のクセは、支店ごとにかなり違っていました。コードの桁数の合わせ方や、コードの基準など、統一されたルールが何もない状態からのスタートでした。

会議に集まった支店代表者も、ITに詳しい人ばかりではなく、システムを導入する意味そのものをまだつかみきれていない人もいて、全支店で足並みを揃えることは簡単ではありませんでした。

まず着手したのは、旧システムで使っていた得意先マスターの見直しでした。ですが、ある支店では、この見直しがきちんと行われないまま時間だけが過ぎてしまいました。支店ごとに独自のやり方が残ったまま、全社で統一したルールを作らなかったことで、その後の検索や管理に、余計な手間がずっとついて回ることになったのです。

システムに対する理解度は支店によって差があり、それぞれの立場からさまざまな要望が出てきました。

その結果、基幹システムには、かなりのカスタマイズを加えることになりました。人は、変わることをどうしても面倒に感じるものです。「今までのやり方でいいじゃないか」という声も、あちこちから聞こえてきました。

けれど、実際にシステムが変わると、今度は「ここが使いにくい」「ここをこうしてほしい」という要望が、次から次へと出てくるようになります。だからこそ、どこかで歯止めをかけつつ、定期的に見直していく仕組みが必要なのだと感じました。

自社でマニュアルを作る

本来、システムのマニュアルは提供会社が用意するものです。ですが、今回はカスタマイズが多かったこともあり、自社でマニュアルを作ることにしました。販売に関するものと会計に関するもの、2種類を用意しました。

マニュアルは、誰が読んでも迷わずわかるように作らなければなりません。導入してすぐに本稼働、というわけにはいかず、まずテスト期間を設けることになりました。旧システムのデータを各支店ごとにインストールし、書類の書式が合っているか、入力の細かな不備がないかを一つひとつ確認し、修正していく。本稼働までには、かなりの数のテストを重ねました。

得意先への書類の様式変更をきちんと周知することも、忘れてはいけない大事な作業でした。

マニュアルは、どちらかというと本稼働してから、本当の意味で活躍しました。全社にとって初めてのシステムだったので、細かいところまで一人ひとりに指導しきることはできません。マニュアルがあったからこそ、なんとか動き出すことができたのです。決算期が変わる新しいシーズンでのスタートで、導入までは大変でしたが、心機一転でのスタートには清々しさがありました。苦労したことも、いつの間にか吹き飛んでしまうものです。

13年をかけてクラウド化へ

それから13年ほどの間、システムは何度かバージョンアップを重ねながら、私がずっと実現したいと思っていたクラウド化に、ようやくたどり着きました。これで在宅勤務も可能になる。私がずっと理想としてきた働き方改革の一つでした。

振り返ってみると、システムを新しくするだけでは、仕組みは変わらないのだと思います。人が理解し、データが整い、運用のルールが揃って、ようやく全社で機能するものになる。あの導入のときの苦労も、遠回りに見えて、実はそこにたどり着くための道のりだったのかもしれません。

ですが、そのタイミングで、私は役員を退任することになりました。理想としてきた働き方を、自分の目で実際に見ることは叶いませんでした。


執筆者:中小企業 元一般事務員・元役員

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