戸惑った、というより、心が壊れそうになった。管理職になったときのことを思い返すと、そんな言葉のほうが近いかもしれません。
前例がない、という理由で
管理職になったとき、私はまだ地方事業所の事務員でした。
直属の上司である支店長は、私が業務の効率化などを率先して進め、支店の業績向上に貢献していたことを評価してくれていました。管理職(課長職)への推薦も、新しい社長が就任するずっと前、前の経営者の時代から続けてくれていたのです。
けれど、返ってくる答えはいつも同じでした。「女性が管理職になった前例がないから」。
前例がない、ただそれだけの理由で却下されました。実績を見てもらった上での判断ではありませんでした。
新社長の就任、そして課長に
新しい社長が就任して、私は会社で初めての女性の課長になりました。
当時の会社は、新しい社長が就任するまで、支店同士の横のつながりがほとんどありませんでした。同じ会社なのに、支店によって使っているシステムが違い、つながるきっかけそのものがなかったのです。ほかの事業所の社員は、私がどんな仕事をしてきたのか、まったく知りませんでした。
「誰よ、その女性?」
きっと、そんな感覚だったのだと思います。
耳に入ってきた噂
管理職になってから、妬みや嫉みの声が聞こえてくるようになりました。
なかでも一番つらかったのは、社長との個人的な関係を疑うような、心ない噂でした。
私は、仕事の実績を評価されて、管理職になったはずでした。それなのに、実績ではなく、社長との関係で説明されてしまう。一番言われたくなかったことであり、できれば外には出したくない言葉でした。
教えてくれた同僚
この噂を私に教えてくれたのは、以前の番外編でも書いた、「会社を良くしたい」と語り合った同僚です。
私の耳にまだ届いていないときに、「いずれ耳に入ると思うから」と、先に教えてくれました。「気にしないで。やっかみだよ」と、そう言ってくれました。
それでも、聞いたときはモヤモヤが消えず、夜は眠れませんでした。なんで、そんなことを言われなければならないのか。葛藤は続きました。
この噂は、社長の耳にも入りました。社長は冗談で受け流してくれました。社長の権限が大きかったこともあり、周囲もそれ以上は追及しなかったのではないかと、私は感じています。ただ、噂そのものが完全になくなったのかどうかは、私にも分かりません。
仕事だけ考えればいいはずなのに
経営者との同行出張もありました。社長と社員とでは出張時の社内規定が異なるため、宿泊先や乗り物の予約は基本的に別々で、同じ宿泊先になることはありませんでした。ただ、何らかの事情で同じ場所になる可能性もないとは言えないので、その都度、同じ宿泊先などになっていないかは確認していました。もともと利用条件が違っていたので、私自身はそれほど意識していたわけではありません。そもそも、そのような対象として見たこともないのですが。
本当は、どうでもいいことのはずです。それなのに、仕事とは関係のないことで、なぜこんな思いをしなければならないのか。そう感じることが何度もありました。
どんな職場でも、男女のことは、何かしら話題になります。気にしていたらキリがありません。だから、とにかく仕事に打ち込みました。会社を良くすることに。
それでも辞めたいとは思わなかった
あれだけ悩んだのに、会社を辞めたいと思ったことは、まったくありませんでした。
この会社には、問題点がたくさんありました。改善したいことも、山のようにありました。それは、辞める理由にはなりませんでした。
噂を消したくて働いたわけでも、誰かを見返したくて働いたわけでもありません。会社を良くしたい、直したいことがあった。それだけでした。
「事業所にいる人ではないよ」
その後、私が本社へ転勤することになったとき、あの支店長は、こう言って送り出してくれました。
「事業所にいる人ではないよ。頑張って。」
最初に私の仕事ぶりを見て、管理職に推薦してくれた人でした。ずっと私の仕事を評価し、背中を押してくれた人でした。
執筆者:中小企業 元一般事務員・元役員


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